大判例

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広島地方裁判所 昭和41年(レ)39号 判決 1967年4月18日

控訴人

中川輝雄

被控訴人

真鍋勇

右訴訟代理人

馬場照男

主文

原判決を左のとおり変更する。

被控訴人は控訴人に対し金四五、四六六円及びこれに対する昭和四一年二月一二日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求をする。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は被控訴人勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人は「原判決を取消す。控被訴人は控訴人に対し金四五、五〇〇円及びこれに対する昭和四一年二月一二日から右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、請求原因及び被控訴人の主張に対して次のとおり述べた。

一、控訴人は瓦販売及び屋根葺工事請負業を営むものであるが、被控訴人の元請工事中左記部分の施行を請負い、その代金はいずれも葺上実坪数により計算し、工事完成と同時に完済する約束であつた。

(1)  昭和三九年一月頃契約、同年二月一〇日完成した安佐郡園町長束木造建居宅二棟(以下林建物という)の屋根葺工事、代金一坪につき、二、五〇〇円、葺上屋根実坪数四四坪六合、工事代金総計金一一一、五〇〇円、右代金の内金一〇五、五〇〇円は支払済みであり、かつ金一、〇〇〇円の値引をしたので残代金五、〇〇〇円。

(2)  昭和四〇年七月九日契約、同月三一日完成した広島市観音町真建工務店隣接の木造平家建居宅一棟(以下沖本建物という)の屋根葺工事、代金一坪につき二、〇〇〇円、葺上屋根実坪数一九坪五合、なお、本件工事中鬼瓦二個、巴瓦二個、のし瓦若干を追加し、その代金を一、五〇〇円とする契約が締結されたので工事代金総計は金四〇、五〇〇円となつた。

二、よつて、控訴人は被控訴人に対し右二件の請負代金合計四五、五〇〇円及びこれに対する履行期後である昭和四一年二月一二日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三、被控訴人は控訴人との間で下請契約を締結したことはないと主張するが、被控訴人主張の訴外株式会社真建工務店は昭和三九年二月一五日の設立で、前記一(1)記載の契約時には右会社は存在せず、被控訴人個人が真建工務店の名称で建築請負業を営み、控訴人は右真建工務店こと被控訴人個人と右契約を締結したのであり、前記一(2)記載の契約の際も、被控訴人は契約の当事者が株式会社真建工務店である旨の何らの表示をせず、従前どおり真建工務店とのみ表示して契約締結をなしたものであり、右契約も控訴人と被控訴人との間で締結されたものである。

四、被控訴人主張の林建物についての値引契約及び本件請負代金の支払期限猶予の約束の存在は否認する。

被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、事実に対する答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

一、被控訴人は控訴人との間で控訴人主張の如き契約を締結したことはない。すなわち、控訴人主張の各契約は、被控訴人が訴外株式会社真建工務店の代表取締役として控訴人との締結したものであり、契約当事者は株式会社真建工務店である。

二、かりに、本件各契約が控訴人と被控訴人間に成立したものとしても、次の(一)(二)の理由により控訴人の本訴請求は失当である。

(一)  林建物について。

控訴人主張の右建物の下請契約の内容(当事者の点を除く)は認めるが、その葺上屋根の実坪は二棟中一棟が二二、一二二坪で、他の一棟が二二、七九二坪である。ところで、控訴人が右工事に際し不良瓦を使用したため、被控訴人は右建物の建築主である訴外林智鶴子に対し請負代金を五〇、〇〇〇円値引し、さらに、控訴人と交渉の結果訴控人との間で下請代金を一坪につき三〇〇円値引きする旨の約束ができた。そして被控訴人は右下請代金としてすでに一〇五、五〇〇円支払済みであり、過払となっている。

(二)  沖本建物について。

控訴人主張の右建物の下請契約の内容(当事者の点を除く)は認めるが、その葺上屋根の実坪数は一六、九五坪であり、また鬼瓦、巴瓦等の使用は一棟の屋根を葺く場合に当然含まれるもので、本件契約は右を前提として締結されているから右各瓦代金を別途支払う必要はない。ところで被控訴人は昭和三九年七月一〇日頃控訴人に安佐郡緑井町坪井に新築の木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一七坪(以下坂本建物という)の屋根葺工事の下請契約を結び、控訴人は一週間後右工事を完成したが、その工事に不良瓦を使用したため建築主の要求で屋根瓦の葺替えをすることになつたが、控訴人はこれを実行しない。そこで、被控訴人と控訴人は昭和四〇年八月頃交渉の結果、右葺替工事が完了するまで、本件建物の下請代金の支払をしない旨の協定が成立した。

三、以上のとおり、控訴人の請求は失当であるが、仮に被控訴人の右期限未到来の主張が理由なしとしても、控訴人の請求金額から前記過払金を差引くべきである。

立証として、

理由

一<証拠>によると次の(一)(二)の事実が認められる。

(一)  被控訴人は昭和三八年一〇月頃株式会社を組織して土木建築業を経営することを企図したが会社の設立をまたずにその頃から広島建設工務店または真建工務店なる名称を用いて個人で右営業をしていたものであり、そして昭和三九年二月一五日株式会社真建工務店を設立しその代表取締役に就任して、同会社が前同種の営業を開始した。

(二)  控訴人は瓦販売及び屋根葺工事請負業を営むものであるが、昭和三九年一月頃被控訴人(真建工務店という名称で)と電話で林建物の屋根葺工事を代金一坪につき二、五〇〇円、完成時に実測による計算の上支払うとの約定で請負う旨の契約を結び右工事は同年二月一〇日完成し、さらに昭和四〇年七月五日右同様電話でもつて沖本建物の屋根葺工事を代金一坪につき二、〇〇〇円、完成時に実測による計算の上支払うとの約定で請負う旨の契約を結び右工事は同月三一日完成した。

二ところで、被控訴人は右各契約の当事者は株式会社真建工務店であり、被控訴人ではないと主張するので案ずるに、前示認定事実によれば林建物についての契約時には株式会社真建工務店はいまだ存在していないことからして控訴人が同会社との間に本件契約をなしたものとは認めがたく、右契約の当事者は真建工務店こと被控訴人個人と解すべきである。沖本建物についてみるに、契約時に右会社が設立されていたことは前示のとおりであるが、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は右契約当時右会社の設立を知らず、被控訴人も右契約の際契約当事者が会社であることを示すことなく従前どおり単に真建工務店とのみ表示して契約を締結したものであると認められ、右認定に反する原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

もつとも、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば右沖本建物の契約時に被控訴人の肩書地の営業事務所に株式会社真建工務店と表示した看板が掲げられていたことは認められるが、右証拠によると右看板は林建物の契約時以前(したがつて会社設立以前)である昭和三八年一二月頃から同所に掲げられていたものと認められるから、右をもつてしても前記認定を左右しえない。

右事実によれば沖本建物についての本件請負契約もまた控訴人と被控訴人個人との間で結ばれたものであると解するのが相当であり、被控訴人は右各契約上の責任を免れないというべきである。(なお附言すれば、右契約は前示のとおり、被控訴人の内心の真意はともかく、その表示行為は被控訴人個人の注文と解すべきであるが、右認定の表示行為が被控訴人の真意に反するとしても、被控訴人は民法第一〇〇条の趣旨からして錯誤の主張は許されないもというべく、また仮に本件契約の当事者が株式会社真建工務店であると解する余地があるとしても、被控訴人は商法第五〇四条但書の規定により請負代金の支払を免れえない事案なのである。)

三そこで、本件各請負代金の額を検討する。まず、林建物についてみるに、その葺上実坪がすくなくとも四四坪六合あることは当事者間に争いがないところ、被控訴人は右工事完成後に控訴人との間で控訴人が右工事完成後に控訴人との間で控訴人が右工事に不良瓦を使用したので一坪につき三〇〇円の値引をなし請負代金を一坪につき二、二〇〇円とする旨の合意が成立したと主張するのであるが、右主張にそう当審証人林智鶴子の証言、当審における被控訴人本人尋問の結果は当審における控訴人本人尋問の結果に照らし容易に措信できず、他に右を認めるに足る証拠はないから、右単価は前示当初の契約どおり二、五〇〇円として計算するを相当とし、工事代金の総計金は一一一、五〇〇円となるところ、内金一〇六、五〇〇円はすでに支払ずみである(当事者間に争いがない)から、被控訴人は控訴人に対し控訴人請求にかかる金五、〇〇〇円を支払うべきである。次に沖本建物につき案ずるに弁論の全趣旨により成立が認められる<証拠>によると、その葺上実坪は一九、四八三坪と認められ、右認定に反する<証拠>被控訴人、控訴人各本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はなく、右工事代金は三八、九六六円となるところ、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人、被控訴人間に右工事の際一部設計を変更して鬼瓦等を葺くこととし、その代金として金一、五〇〇円の増額をなす旨の合意が成立したことが認められ、右に反する当審における被控訴人本人尋問の結果は右証拠に比し措信しがたく、他に右認定に反する証拠はない。したがつて、沖本建物についての請負代金総計は四〇、四六六円となる。

四被控訴人は、控訴人、被控訴人間で控訴人が坂本建物の屋根葺替工事を完了するまで右代金の支払をしない旨の合意が成立したと主張するのであるが、当審における証人栗田慶一(第一回)の証言、控訴人、被控訴人本人尋問の結果によると、右代金不払は沖本建物の建築主と被控訴人との建築請負の仲介をした栗田と被控訴人とで決めたもので、控訴人の了解を得ているとは認めがたく、本件全証拠によつても被控訴人と控訴人との間に右の如き合意が成立したとは認められない。

五そうすると、被控訴人は控訴人に対して請負代金四五、四六六円及びこれに対する履行期後である昭和四一年二月一二日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、控訴人の請求は右金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却すべきであり、控訴人の本件控訴は右の限度で理由がある。

よつて、原判決中右と結論を異にする部分は不当であるから、これを変更することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第九二条但書、第一九六条を適用して主文のとおり判決する。(長谷川茂 治雑賀飛竜 河村直樹)

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